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三六  悲しめる聖母



 いとも尊き童貞はヨハネに、愛すべきおん子の引かれていく行列に出会える場所へ連れて行くように願われた。聖母が青ざめ、目は赤く泣きはれ、ふるえおののきながら、青みがかった灰色のマントですっかりおおわれて、こちらに来られるのを見た時、わたしはぞっとした。すでに街角にざわめき、叫び、ラッパの響き、怒鳴り声などが聞こえてきた。マリアは祈った。そしてヨハネにお尋ねになった。「わたしは見た方がいいでしょうか。それとも向こうへ行きましょうか。それに耐えることが出来ましょうか。」しかしヨハネは答えた。「もしとどまっていなければ、あなたはさらに激しく苦しまれるでしょう。」そしてしばらくたたずんでいた門の下から二人は出て行った。二人は道を右手に見下ろした。その道はそこまで登り坂となって、そこからふたたび平らになっていた。行列はまだ八十歩ほど離れていた。そこまでは行列のだれも来ていなかった。

 死刑執行の奴隷が拷問道具を持って歩いて来るや、聖母は激しく打ちふるえ手をよじられた。一人の青年がまわりの人に尋ねた。「あの人はひどく悲嘆にくれているようだが一体何者だい。」するとそのうちの一人が答えた。「あれがガリラヤ人のおふくろさ。」悪党たちはこれを聞いて嘆き悲しむ聖母を指さしながら嘲笑った。そのうちもっとも卑しい一人の悪党は、十字架の釘を手に持って聖母の顔の前にさしつけた。しかし聖母は手をよじりつつイエズスをごらんになり。お苦しみのあまり、門の柱に寄りかかられた。聖母はまるで死人のように青ざめた。騎馬のファリサイ人が通りすぎた。その次に捨て札を持った子供が続いた。ああ、その数歩後に神のおん子 - かの女の子 - 至聖なるお方 - 救世主、主はかがみ、よろめきながら進んで来られた。茨の冠をかむられた頭はいたいたしくもわきの方に曲げておられた。主はその血だらけな深くくぼんだ眼をもって、悲しみにあふれるおん母をじっと、同情をこめてごらんになった。その瞬間主はよろめき、十字架の重荷でふたたびがっくりと膝と両手をつかれた。嘆き悲しめる聖母は兵卒、獄吏を見なかった。 - ただご自分の愛する哀れな虐げられたおん子だけ。手をよじりつつ聖母は獄吏の間を走りぬけ、イエズスのかたわらに膝をつかれ、かれを抱きしめた。わたしはお二人が口をもって言われたかどうかは知らぬが - しかし「おおわが子よ。」「おん母よ。」という言葉を聞いた。

 獄吏たちは罵倒し、嘲った。しかもその一人は言った。「おまえがもっとよくしつけりゃこいつはおれたちのご厄介にならなかったろうに。」しかし幾人かの兵卒は何か胸にせまるものを感じた。兵士は聖母を押しやった。獄吏たちはだれも聖母に触れなかった。ヨハネと婦人たちは聖母をお連れしたが、聖母は前に待っておられた門の下まで来られると、苦しみのあまりがっくりと膝をついてしまわれた。

 その間獄吏たちは主を再び引っぱり起こして十字架をその肩にのせた。




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